『「学力」の経済学』から学ぶ教育⑦「幼児教育が重要な理由」

前回,子供がなるべく小さいうちから,教育にお金や時間をかけた方が良いことを述べました。就学前の子供の方が,年齢が高い子供と比較して,教育に対する投資の収益率が高くなるためです。

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今回は,なぜ幼児教育が重要かについて,もう少し掘り下げて考えて行きたいと思います。

幼児教育を行うことで得られる効果

『「学力」の経済学』では,アメリカで行われた,3~4歳の子供たちに対する「就学前教育プログラム」実験について紹介されています。少人数制の読み書き・歌のレッスン,親に対しては子供への接し方レクチャー・家庭訪問等を継続的に実施し,約40年にわたる追跡調査を行ったところ,次のような結果が得られたそうです。

  • 6歳時点でのIQ → 高い
  • 19歳時点での高校卒業率 → 高い
  • 27歳時点での持ち家率 → 高い
  • 40歳時点での所得 → 高い
  • 40歳時点での逮捕率 → 低い

この実験結果を受けて,『「学力」の経済学』では次のように述べられています。

つまり,この就学前プログラムに参加した子どもたちは,小学校時点のIQが高かっただけでなく,その後の人生において,学歴が高く,雇用や経済的な環境が安定しており,反社会的な行為に及ぶ確率も低かったのです。

本実験により,就学前教育に長期にわたって持続する効果があることが明らかになりました。また幼児教育は,親や子供だけでなく,社会全体にとっても良い影響を及ぼすと本書では述べられています。

就学前教育への支出は,雇用や,生活保護の受給,逮捕率などにも影響を及ぼすことから,単に教育を受けた本人のみならず,社会全体にとってもよい影響をもたらすのです。

社会全体への好影響を「社会収益率」として推計したところ,就学前教育プログラムの「社会収益率」は年率7~10%にも上るとのことです。4歳の時に投資した100円が,65歳の時に6000円から3万円ほどになって社会に還元されるということなので,現在,政府が失業保険の給付や犯罪の抑止に多額の支出を行っていることを考えると,幼児教育への財政支出は,社会全体でみても,非常に割のよい投資であると著者は述べています。

幼児教育は子供の何を変えるのか

学力やIQへの効果は持続しない

先の実験結果を見て,「就学前に質の高い幼児教育を受けたことで,子供たちの学力が上昇し,その結果成功したのだ」と考える方が多いかもしれませんが,実は違うと著者は述べています。

就学前教育プログラムで,確かに子どもたちの小学校入学後のIQや学力テストの成績は上昇しましたが,ごく短期的なものだったそうです。IQや学力テストで計測される能力のことを,一般に「認知能力」と呼びますが,就学前教育プログラムは,3~8歳ごろまでは認知能力を上昇させる効果を持ったものの,その効果は8歳ごろで失われ,決して長期にわたって持続するものではなかったとのことです。

幼児教育により,気質や性格が改善された

就学前教育プログラムによって改善されたのは,「忍耐力がある」「社会性がある」「意欲的である」といった人間の気質や性格的な特徴である「非認知能力」でした。非認知能力は,認知能力の形成にも一役買っているだけでなく,将来の年収,学歴や就業形態などの労働市場における成果にも大きく影響することが,実験結果により明らかになっているようです。さらに著者は次のように述べています。

 どんなに勉強ができても,自己管理ができず,やる気がなくて,まじめさに欠け,コミュニケーション能力が低い人が社会で活躍できるはずはありません。一歩学校の外へ出てみたら,学力以外の能力が圧倒的に大切だというのは,多くの人が実感されているところではないでしょうか。

幼児教育といっても,英才教育をしたり,付きっきりで勉強を教えたりするのではなく,効果的な接し方・しつけを行うことで,子供の「非認知能力」を高めることに大きな意味があるのです。

次回,社会で活躍する上で重要な「非認知能力」について,詳しく見ていきたいと思います。

 

 

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