「やり抜く力」を高めるには親子間の信頼関係が大切

子どもの「やり抜く力」を高めるためには,親子間で信頼関係を築くことが重要です。子どもが「自分は受け入れられているんだ」と安心感を抱くことで,物事をやり抜こうという気持ちが起こるためです。

マズローの欲求5段階説 

理論を用いて説明しましょう。アメリカの心理学者アブラハム・マズローは,人間の欲求には5段階の階層があることを発見しました。人間の欲求は,5段階のピラミッド構造で表すことができ,低次の欲求を満たすことで初めて,もう一段階上の高次の欲求を欲するという理論です。

 

第一階層:「生理的欲求」
「食べたい」「寝たい」など、生きていくための本能的な欲求です。この欲求が満たされると,次の階層である「安全欲求」を求めるようになります。

 

第二階層:「安全欲求」
「危機を回避したい」「安全な暮らしがしたい」など,秩序的で安全な生活を求める欲求です。この欲求が満たされると,次の階層である「社会的欲求」を求めるようになります。

 

第三階層:「社会的欲求」
「集団に属したい」「仲間が欲しい」など、社会的な役割や人間関係に関する欲求です。他者に受け入れられている,自分が必要とされている,どこかに所属しているという感覚を求めます。この欲求が満たされると,次の階層である「尊厳欲求」を求めるようになります。

 

第四階層:「尊厳欲求」
「他者から認められたい」「尊敬されたい」など,自分が集団から価値ある存在だと認められ,尊重されることを求める欲求です。この欲求が満たされると,次の階層である「自己実現欲求」を求めるようになります。

 

第五階層:「自己実現欲求」
「自分の能力を引き出し,創造的活動がしたい」「あるべき自分になりたい」など,自分の持つ能力や可能性を最大限発揮したいという欲求です。第五階層に到達して初めて,創造性の高い活動,目標達成,自己成長などを志向するようになります。

 

第一~四階層の欲求は、足りないものを満たすという意味で「欠乏欲求」といわれますが,第五階層の「自己実現欲求」は,欠乏欲求との対比で「成長欲求」「存在欲求」と呼ばれます。

「やり抜く力」は第五階層の「自己実現欲求」に分類されます。したがって,「やり抜く力」を高めるためには,第一~四階層の「欠乏欲求」を満たしている必要があります。

子どもがなるべく小さいうちに,安心して生活できる家庭の場を提供しましょう。親子間で信頼関係を築き,ありのままの子どもを受け入れることが大切です。そうすることで,ようやく「やり抜く力」を高める素地が整ったことになります。

幼少期に親子の信頼関係を築くことが大切

幼少期は特に,子どもが家庭で過ごす時間が長く,親の影響を受けやすい時期です。幼少期に構築された親子の関係性は,長きに渡って継続すると同時に,子どもの他者への関わり方にも大きな影響を与えます。幼少期の親の接し方で,子どもの一生が決まると言っても過言ではありません。

具体的な事例をご紹介しましょう。中学二年生のAさんは,上手くいっていないことを親に隠したり,嘘を付いたりします。悪いテスト結果は絶対に親に見せません。「まだ答案が返却されていない」と嘘を付きます。宿題もやっていないのに「やった」と言ったり,答えを写したりします。分からない問題があっても「全部わかった」と言います。

Aさんは幼少期から,親のエゴや見栄で叱られ,ときには体罰を与えられてきました。Aさんは努力しているのに,親は認めてくれません。幼児教室に通っていましたが,難しい宿題が多く,Aさんは頑張っているのに,なかなかできませんでした。そんなときも,「なんであなたはできないの!」「お友達はみんなできているじゃない!」と怒られます。「難しいの?」「頑張っているね」とAさんの親が歩み寄ってくれることは,一度もありませんでした。

次第にAさんは,親に本音を話さなくなりました。本当のことを親に話しても,分かってくれないからです。また,「出来ないことは悪いことだ」という考えが頭の中に刷り込まれ,嘘を付いて誤魔化すようになりました。

Aさんが中学二年生のときに,Aさんと私は出会いました。そのころには,親だけでなく誰に対しても嘘を付いて誤魔化すことが,Aさんにとって当たり前になっていました。Aさんは私に対しても嘘を付きました。「毎日一ページ,プリントをやろうね」「できなくてもいいから,正直に『できなかった』と言おう」――このような約束をAさんは一つも守れませんでした。どう見ても宿題をやっていない,明らかに答えを丸写ししたときでさえも,Aさんは「できた!」と言います。嘘を付くのが習慣になってしまっているのでしょう。私とAさんは信頼関係を築くことができませんでした。Aさんは学校の先生や,他の習い事の先生,友達にも,同じように嘘を付いているようです。

Aさんのように現実を直視できない,自分にも他人にも嘘を付くようでは,「やり抜く力」を高めるのは難しいでしょう。Aさんのこのような性格は,幼少期に親子間で信頼関係が築けなかったことに起因します。

まずはありのままの子どもを受け入れよう

幼少期に親子間で信頼関係を築き,親にありのままの自分を受け入れられることで,子どもは安心感を得ます。「お母さん、お父さんには何でも話していいんだ」という気持ちを,子供に持ってもらうことが大切です。そうすることで,将来,他者と信頼関係を築きながら,「自分の好きなことを深めよう」「勉強も頑張ってみよう」と粘り強く物事に取り組めるようになるのです。

 

 

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