「こんな成績を取って!」「また同じ問題を間違えたの?」と頭ごなしに子どもを叱っていないでしょうか。声を荒げてこのような言葉がけをすると,子どもは「怒られて怖い!」と思考停止状態に陥ってしまいます。
起こってしまったことはもう変えることができません。悪い成績を取ったこと,同じ問題を間違えたことを責めても,その事実を変えることはできないのです。それなのに感情に任せてつい頭ごなしに叱ってしまうと,「間違えたらまた怒られる」「勉強なんて嫌い」と,子どもに恐怖心や嫌悪感を植えつけてしまいます。間違えたり,失敗したりすることを避けようとするため,新しいことや難しいことに挑戦できなくなってしまいます。
具体例をご紹介しましょう。中学一年生のAさんは,幼いころから「こんな成績を取って!」「また同じ問題を間違えたの?」と頭ごなしに叱られてきました。Aさんは次第に親と勉強の話をするのを避けるようになりました。親がノートやテストを見るのを嫌がり,隠すようになりました。「子どもの答案を見たくても見せてくれない」「成績がよいか悪いかもわからない」「勉強について話し合いたくても話し合えない」「これからどんどん勉強が本格化するのにどうしよう」とAさんの親は悩み,私のもとに相談に訪れました。
Aさんの授業を担当したところ,私は様々なことに気づきました。Aさんは自分の書いた答えを左手で隠しながら問題を解いていること,答えをすぐに消せるように常に消しゴムを握りしめていること,わからない問題に取り組もうとすると思考が停止してしまい,解説しても上の空であること――。これらは間違えることやできないことに対する恐怖心により,引き起こされているのだと私は感じました。
このままでは,Aさんは自分ができる範囲内の簡単な問題にしか取り組むことができません。難しい問題に挑戦したり,筋道立てて考えたりすることができないため,伸び悩んでしまいます。まずは間違えることやできないことに対する恐怖心を取り除く必要があると私は考えました。
そこでこのような状況についてAさんの親に説明し,「こんな成績を取って!」「また同じ問題を間違えたの?」という言葉がけをやめてもらいました。ご家庭ではどうしても悪い部分が目についてしまうとのことだったので,毎授業後に私から保護者の方に,「計算問題は速く解けるようになりました」「今日は一時間集中して取り組めました」などAさんが成長した点についてお伝えし,Aさんをほめてもらうようにしました。
このような取り組みを始めて半年ほどで,Aさんの親は子どものよい部分や努力した点に自然と気づくようになりました。Aさんも,間違えることに対する恐怖心がなくなり,「この問題はここまでわかるんだけどな」「こうやって解くんじゃないかな」と難しい問題にチャンレジしたり,筋道立てて考えたりすることができるようになりました。
今ではご家庭で,Aさんも交えて勉強に関する話もできるようになりました。たとえAさんが悪い成績を持ち帰ってきたとしても,Aさんの親は「弱点がわかってよかったね」「間違えることは悪いことじゃないよ」「同じ間違いを繰り返さないことが大事だね」と声かけします。Aさんの親は「悪い成績を取ったり,失敗したりすること自体は悪くない」「失敗を経験して次に生かすことこそ重要だ」と考えるようになったため,「こんな成績を取って!」「また同じ問題を間違えたの?」と頭ごなしにAさんを叱らなくなりました。
「こんな成績を取って!」「また同じ問題を間違えたの?」と頭ごなしを叱っても,子どものやる気を引き出すことはできません。「その部分はがんばったんだね」と努力を認め,「今回はこんな結果だったけど、弱点がわかってよかったね」「間違えることは悪いことじゃないよ」「同じ間違いを繰り返さないことが大事だね」と失敗を次に生かすことの重要性を伝えましょう。
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