エッセンシャル思考とは,自分の時間とエネルギーをもっとも効果的に配分し,いちばん重要なものごとにおいて最大の成果を上げる技術のことです。
将来,社会で活躍する子供たちがエッセンシャル思考を身に付けることは,大きな価値があります。そのために,まず,多くの時間を子供と共に過ごす保護者様が「エッセンシャル思考とは何か?」を知っておきましょう。
また,保護者様がエッセンシャル思考を身に付けることで,子供を「あるべき姿」に近づけるための効果的なエネルギー・時間の使い方が分かるようになります。
子供に取り組ませたい習い事が多すぎて選べない,周りの友人の話を聞いていると比べて焦ってしまう,成績表の結果に一喜一憂してしまう,つい感情的に子供に接してしまう――思い当たることがある方は,ぜひエッセンシャル思考を学び,実践されることをおすすめします。
見極める技術
エッセンシャル思考の人は,そうでない人よりも多くの選択肢を検討する。逆説的だが,それが事実だ。
非エッセンシャル思考の人はあらゆる話に反応し,何でもとりあえずやってみる。
だから多くのことに手を出すが,すべて中途半端な結果しか得られない。
それに対してエッセンシャル思考の人は,何かに手を出す前に,幅広い選択肢を慎重に検討する。そして「これだけは」ということだけを実行する。行動を起こす数は少ないが,やると決めたことについては最高の結果を出す。
数ある選択肢のなかから本質的なものを見極めることこそが,エッセンシャル思考の真髄である,と本書では述べられています。そして,本当に重要なものごとを見極めるために必要なこと5つが紹介されています。
1.孤独
2.洞察
3.遊び
4.睡眠
5.選抜
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1.孤独――考えるためのスペースをつくる
何事も,まず選択肢を調べないことには,本質を見極めることはできない。
非エッセンシャル思考の人は,とにかく目の前のことに反応する。聞いたばかりのチャンスに飛びつき,読んだばかりのメールに返信する。だがエッセンシャル思考の人は,すぐに飛びついたりしない。調査と検討にたっぷりの時間をかけることを選ぶ。
テレビや雑誌で紹介されていた育児法や勉強法,友達が良いと言っていた習い事や教材など,「何となく良さそう」と言ってすぐに飛びついていませんか。これは非エッセンシャル思考の生き方です。
多数の瑣末なことのなかから少数の重要なことを見分けるためには,考える時間が必要です。この忙しい世の中で,そんな余裕が自然に生まれてくるわけがないので,1日2時間,それが無理であれば5分でも,忙しい日常から離れて,考える時間を自ら設けることが重要である,と著者は述べています。
2.洞察ーー情報の本質をつかみとる
非エッセンシャル思考
- 声の大きい意見に反応する
- 話のすべてを聞こうとする
- 情報の渦に呑み込まれる
エッセンシャル思考
- ノイズのなかのシグナルを探す
- 語られないことに耳を傾ける
- 情報の本質をつかみとる
膨大な情報の中から,隠された本質をつかみとることは重要です。本書で紹介されている「本質を見抜く方法」の中から,いくつかをご紹介します。
大局を見る
ささいなことに気をとられすぎると,大局を見失う。〔......〕何をするときにも,すぐれたジャーナリストのように,本質を見抜く目を持たなくてはならない。
「〇〇さん家の子供はもう1学年上の予習しているんだって!」と聞いて焦ったり,「今回のテストで~点上がった/~点下がった」と些細な出来事に一喜一憂したりしていませんか。
将来に向けた大きな流れの中で,現状が適切な方向に向かっているのか,把握することが大切です。今,周りの子と比べて少し学習進度が遅れていても,中学→高校→大学と長期的に見て,子供が理想的な方向に向かうのであれば,焦る必要はありません。
テスト結果も同様,良いときもあれば悪いときもあります。同じ実力であっても,出題される問題により,結果が変動することもあります。テスト結果に一喜一憂するのではなく,これまでの傾向を大きな流れの中で捉え,「良い方向に向かっているか」「変えた方が良いところはないか」を考えることに意味があります。日常の出来事にすぐに反応・一喜一憂することなく,大局を見ることが,本質をつかみとることに繋がります。
本質をつかみとる方法として,「日記をつけること」が挙げられています。日記を2~3ヶ月ごとに読み返し,大きな流れを把握することを著者は推奨しています。
問題を明確にする
問題が不明瞭なまま答えを探ると,解決策を探していたつもりが,さらなる問題や疑問が生まれてくることになる,と著者は述べています。
例えば,お子様に対して,次のような悩みや問題をお持ちでしょうか。
- テストの得点が悪い
- ゲームばかりしている
- 片付けができない
これらの問題に対して,解決策を探っていくと,次のような選択に行きつく場合があります。
- 親が付きっきりで勉強を教える
- 詰め込み指導をしてくれる学習塾へ入れる
- ゲームを禁止する
- 親が片づけをしてあげる
「本当にそれでいいの?」という疑問が生まれてきませんか。もし疑問に思われる場合は,問題をより明確にする必要があります。先ほど述べた問題をより明確に表すと,次のようになるかもしれません。
- 子供自身で学習目標を設定できない
- 子供自身で日々のスケジュールを立てられない
- 自己管理ができない
このように問題設定すると,先ほど挙がったような「疑問が生まれる」解決策は出てこないでしょう。
考えるほどに,さらなる問題や疑問がうまれてくるという悪循環から抜け出し,本質を掴むためには,まず問題を明確にすることが肝要です。
3.遊び――内なる子供の声を聞く
エッセンシャル思考
- 遊びを重視する
- 遊びが不可欠だと知っている
非エッセンシャル思考
- 遊びを軽視する
- 遊びは時間の無駄だと思う
遊びを通じて,視野が広がり,ストレスが軽減され,脳の機能が活性化される。遊びはエッセンシャル思考に不可欠である,と著者は述べています。
「遊んでいる暇があったら勉強しなさい!」と子供に勉強ばかりさせていないでしょうか。遊びの時間を軽視し,勉強ばかりさせることは,効果的ではありません。勉強時間を増やしたからと言って,得られる成果が大きくなるわけではないのです。それどころか,生産性が落ちてしまい,逆効果になる可能性が高いです。
また勉強のやり方に,遊びを持たせることも大切です。子供の勉強のやり方に「そんなやり方,非効率的だ!」「それは意味がないから,こういうやり方で勉強しなさい」と親が勉強方法を指示することはないでしょうか。遊びは,創造性と探求心の源です。勉強方法を子供なりに試行錯誤することは無駄ではなく,非常に価値のある取り組みです。遊びを無駄だとみなすことを止めて,積極的に生活・教育に取り入れましょう。
4.睡眠ーー1時間の眠りが数時間分の成果を生む
非エッセンシャル思考
- もう一時間睡眠を削れば,もう一時間仕事ができる
- 眠るのは根性なしだ
- 眠ると怠け者になる
- 睡眠のせいで仕事量が減る
エッセンシャル思考
- もう1時間眠れば,数時間分の生産性が手に入る
- 優秀な人はよく眠る
- 眠ると創造的になる
- 睡眠は仕事の効率を高めてくれる
睡眠時間を削って勉強する我が子を「うちの子はすごい!やる気がある!」と誇りに思っていませんか。たいていの場合,学校の授業や自宅学習で居眠りをしています。「睡眠時間も短く,たくさん勉強しているはずなのに......成果が出ないのはなぜだろう?」と疑問を感じている方が少なくないのではと想像します。
睡眠時間を削って,学習時間を増やしても,学習中に集中していなければ,全く意味がありません。学校の授業を聞けていなければ,一から自分で自宅学習しなければなりません。自宅学習でも眠気が強ければ,1時間で出来る学習が2時間かかってしまいます。そしてまた睡眠時間を削って学習しなければならなくなる......という悪循環に陥ります。
睡眠時間が短いのは,誇れる・自慢できることではありません。単純に効率が悪いだけです。睡眠時間を増やす→集中して短時間で学習を終わらせる→遊びの時間も確保・リフレッシュできる→さらに学習が効率的に進む→睡眠時間をたっぷり取れる――このような良い循環を作り出すことが重要です。
また保護者様自身も睡眠時間には気を付けてください。睡眠時間が不足すると,選択肢の中から重要なことを見分けたり,優先順位をつける力が低下するとのことです。家庭教育にも影響が出てしまいますので,睡眠時間を多くとるように心掛けてください。
5.選抜――もっとも厳しい基準で決める
エッセンシャル思考の人は「やろうかな」程度のことなら却下する。「イエス」と言うのは,絶対やるしかないと確信したときだけだ。
非エッセンシャル思考の人は,いつも消極的な基準でものごとを選んでいる。
「上司に言われたからやる」「誰かに頼まれたからやる」,あるいは「みんながやっているからやる」という基準だ。
「皆が塾に行っているから行く」「皆がやっているのに自分だけやらないのは不安だ」――親そして子供の間で,このような考え方が主流であるように感じます。これは非エッセンシャル思考の考え方です。消極的な基準でものごとを取り入れ,あれこれ手をつけていくうちに,本当に重要なことを見失ってしまったり,本当に重要なことをする余裕がなくなってしまいます。
エッセンシャル思考を実践するコツとして,「90点ルール」が紹介されています。
最重要基準をひとつ用意して,その基準に従って選択肢を100点満点で評価する。ただし90点未満の点数は,すべて0点と同じ。不合格だ。こうすれば,60~70点くらいの中途半端な選択肢に悩まされずにすむ。
習い事の選択にも「90点ルール」を適用することができます。一つだけ最重要基準を決めます。例えば「子供が楽しんで取り組んでいる」「将来の夢の実現確度が高まる」「子供自身で考えたり行動したりできるようになる」「学校の成績が上がる」などです。そして,それぞれの習い事に対して,100点満点で点数を付けていきます。90点以上は続けた方が良い習い事,90点未満は辞めた方が良い習い事ということになります。
おわかりのように,90点ルールのすぐれた点は,瑣末な選択肢を容赦なく切り捨てられるところだ。しかもシンプルな数字で決めるので,選択が合理的・論理的になる。直感や感情の入り込む余地はない。厳しすぎるルールに思えるかもしれないが,妥協すれば自分が損をするだけだ。
ただし,基準を誤ると,意図しない未来に繋がる選択をしてしまうことになるので,注意が必要です。基準は一人で決めるのではなく,夫婦間・親子間で話し合うことをおすすめします。
以上,エッセンシャル思考に必要な「見極める技術」についてお伝えしました。ぜひ実践いただければ幸いです。
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